ばあちゃんと引越

人は一生のうちに平均して何度ぐらい引っ越すのでしょうか。私のように何故か引越回数が無駄に多く万年引越貧乏な人間は珍しいかもしれませんが、進学や転勤で引越が当たり前になった今、一生引っ越したことがない人もまた珍しくなりつつあるのではないでしょうか。

実家のばあちゃんは引越をした事がありません。80を越していますが、生まれてからずっと同じ土地、同じ住所に住んでいます。ばあちゃんは男兄弟がなく長女であるため、婿をもらって家を継ぎました。

実家はかなりの田舎にあります。昔はそれなりに羽振りのいい家だったらしいのですが、時代の波についていけずしっかり没落しています。しかしばあちゃんは旧家のお嬢さんとして育てられたのか、それとも引っ越して他の土地を見る機会がなかったためか、ちょっと現実離れした考え方をします。

私が18歳で上京する時、家にあった小皿やスプーンや鍋やタオルやハンカチやもらい物のお菓子やその他こまごまとした雑多な物を持って行くように、とくれました。友達が遊びに来たら役に立つし、これは何かに使えるだろうし、などが理由です。私も始めての引越しだったため勝手が分からずくれるという物はもらいましたが、一人暮らしをはじめてみてから都会のワンルームアパートには無用の長物であったと分かりました。あってもなくてもいい物はないほうが部屋もすっきりするし、掃除も楽だし、すがすがしく過ごせるのです。

引越しは両親がワゴン車に荷物を積んで夜通し運転して運んでくれました。思い出してみると、私の引越しを手伝ってくれた時、父は荷物を見てかなり困った顔をしていました。荷物を見ながら「引越したことないのか」と始めから答えの分かっている質問をしてくるので、「それ、ばあちゃんにもらった。」と言うとその後神妙な顔のまま黙って手伝ってくれました。何度か引越しを経験している彼から見ると、無駄な物だというのが一目で分かったのでしょう。しかしばあちゃんはばあちゃんなりに考えて色々くれたので、何も言わないことにしたのでしょう。私も何も言わずにおきました。